財界トップが、土地の人達が喜ぶことを大事にしてくれる静岡
「清水エスパルス」クラブ運営は、私のスポーツビジネスへの想いをいっそう強くするとともに静岡への愛着を深めることとなりました。「ベルテックス静岡」との縁を結ぶにあたっては、5年間熱心に応援してくださり、お世話になった静岡市民の方々に、何か恩返しがしたいという思いも強くありました。静岡の人は、とても地元を大事にします。同じ街に住む人、同じ中学高校の出身者、同郷の仕事仲間を大切にします。だからこそでしょうか、地元にあって他県と試合をするスポーツ競技をとても大事してくれます。それは静岡の財界人も同じですね。静岡の財界は、土地の人がとても多い。同族経営の会社や静岡エリアだけで商いをやっている、100億円200億円規模の会社が少なくありません。静岡と同じ人口70万くらいの地方都市だと、上場企業ができたら社員は異動や出向が続いて、会社の中に土地の人は少ないという状態になるのですが、静岡は違います。企業の利益とは別の部分で、土地の人を大切にして、その人達の生活を成り立たたせるために自分達は存在しているんだ、というような企業文化を持っている会社が大変多い。静岡の交響楽団など芸術文化への寄付やプロスポーツのスポンサー社数にも、それが現れています。財界トップが、土地の人達が喜ぶことを大事にしてくださるおかげで、「清水エスパルス」時代はもちろんのこと「ベルテックス静岡」にも大きなご支援をいただけています。他県出身の私のことも、ありがたいことに前クラブ退任後も変わらずに大事にしていただき、街ですれ違いざまに声をかけてくださるなど、人対人の血の通ったお付き合いができる都市だと感じています。
Uターン人材を活かすためには、必ずラインの中にいれること
私はこれまでの経験上、Uターン人材採用には大賛成です。「ベルテックス静岡」でも大澤歩選手や大石慎之介選手などの主力クラスが上位カテゴリーのクラブオファーを蹴って、地元静岡にクラブができたというのですぐに戻ってきてくれました。彼らは外でプロチームのありようを学んできていて、それをできたばかりのチームに植え付けようとしてくれているのですが、まったく同じことがスポーツクラブだけではなく他の会社でも言えると考えています。
ただ1つだけ絶対に守らないといけないことは、Uターン人材の活かし方です。それは「必ずラインの中にいれる」ということ。権限と責任をちゃんと持たせて指揮命令系統のラインの中に入れないと、「そんなの、うちのやり方じゃない」と言われて結局は何もできなくなります。例えば顧問のポジションであれば良かれと思って何か言っても強い権限がないため発言が選択されない場合がありますが、それが副社長であれば、業務命令となり言われた人間が選択拒否することはできません。それで成功したら「さすが」となりますし、駄目だった時には自らの責任となります。そもそも権限が不十分で責任ばかり追及されるところに、優秀な人は入ってきません。例えば、オーナー系の企業で息子さんが引き継ぐというときにも、私は「親父さんが退任する前に、地元出身のエグゼクティブクラスの人材を、顧問じゃなくて息子さんの一個上の等級のところに置いて、学習させてはどうか」と言っています。それは襟を正して上司から学ぶ環境を、生まれた時から顔を見てきた親子間で持つことは必ずしも簡単ではないからです。地元出身で外を知り、切れ味がよくて優秀なちょっと年上の人材をつれてきて少し緊張感を持たせることは、同族経営を右肩上がりでやっていくうえで、一つの突破口になっていくのではないかと思います。