壮絶だった既存店舗の建て直し
当時、展開していた店舗は3店舗で、ハミングバードのほか、和食の店も経営していました。私が任されたのは、一番新しい店舗で、開店して4か月ほどたっていたのですが、フタを開けてみるとメチャクチャでした。くたびれた店長、レシピを守らずやりたい放題の調理長、月間200万の赤字。チラシをまけばお客さんに「ああ、あの不味い店ね」と言われる始末。改善提案をすれば社長のボンボン扱い。料理長との折り合いは悪く、とうとう店の調理人を連れて出て行ってしまいました。残ったのは、私とアルバイト2人。3人全員がほぼ素人ですから、きつかったですね。朝から晩まで働き詰め、でも給料もとれない。3ヶ月で20Kg体重が減りました。まずは、マイナスをゼロにもどそうと、とにかく本店と同じ味を出せるよう、勉強しました。飲食店のノウハウ本や雑誌を読み漁ったり、経営がしっかりしているチェーン店に行って、メニュー構成を研究したりもしました。この居酒屋のカテゴライズをイタリアンに当てはめたら何になるだろう、これは鶏肉を何%、豚肉を何%使っているな、炒め物は全体の何%あるな、夜の売り上げを伸ばすにはお酒をオーダーいただかないといけないから、そのためにどんなメニューを提供すればいいだろう、と。お店の宣伝のために、立て看板を持って繁華街で大声を出して歩いたりもしました。全員で努力し、半年でどうにか軌道に乗せることができました。「なんでこんな思いをしなければ」という思いもありました。でも環境のせいにしたくなかった。留学時のアメリカやメキシコで見た貧しい人たちからしたら自分は恵まれていると思った。きつかったですけど「ポストが赤いのも自分のせい」と思って頑張り続けました。結果的に入社前の3倍、ランチだけならさらに売上げを伸ばすまでに至りました。
飲食業がさげすまれるのは、我慢がならない。
人材育成には力を入れています。社員一人ひとりが、自分で未来を切り拓ける体制を作り、店舗も、のれん分けや社内フランチャイズで増やしていきたい。そう考えたきっかけは、先に言ったような辛い時代に残ってくれたスタッフへの感謝があります。店舗で働くスタッフを見て、もっと視野を広げてあげたいと思ったことでした。飲食業界に入ってくる人たちは、学歴社会の中で負け組みたいな思いを持っていて、自分の可能性に蓋をしている人がすごく多いんです。でも、それが人として劣っているわけではない。たまたま勉強ができなかっただけで、人として人を思いやることのほうがよっぽど大切だし、それぞれに得意なこともたくさんある。広い世界を見れば、誇りを持てるんじゃないか、井の中の蛙を井戸から出してあげたい、と思ったんです。