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小文字のinnovation群発で、大文字のINNOVATIONを。

株式会社マスヤ(マスヤグループ)
代表取締役 浜田 吉司

三重 更新日:2021年7月07日

1986年慶應義塾大学経済学部卒業後、大手証券会社勤務等を経て、1994年より現職。父である先代社長から引き継いだ事業に、自ら興した事業、M&Aにより傘下とした事業を加え、現在は持ち株会社と事業会社を合わせて10社あまり、従業員約500人の企業グループを率いる。三重県と茨城県の経営品質賞各賞を各社で受賞するなど経営や地域貢献に関する表彰多数。三重大学客員教授。
※所属や役職、記事内の内容は取材時点のものです。

『おにぎりせんべい』のマスヤを中核とする企業グループ。

当社は、西日本を中心にごひいきいただいている『おにぎりせんべい』を主力製品とする(株)マスヤを中核に、菓子製造、酒類製造、介護事業、ホテル、ブライダル、商社、旅行など多様な事業を展開する企業グループです。目指すところは、「地域イノベーション創造企業」とでも言いましょうか。現在は10社あまりからなる企業グループですが、私が2代目社長に就任して以降、先代社長である父の代から引き継いだ(株)マスヤなどの他に、新たに3社を起業し、多角化に対応すべく持ち株会社である(株)マスヤグループ本社を設立し、さらにM&Aにより3社をグループに加えました。

ありのままを見せて採用。経営者としての考え方を変えた瞬間。

現在は多くの優秀な人材に恵まれてグループ経営が軌道に乗ってきた実感がありますが、ここに至るまで、経営幹部の人材難が長年の課題でした。何度か中途採用も試みましたが、あまりうまくいきませんでした。若くして社長になっていたので、年上の幹部とうまく仕事の仕方を合わせられなかった未熟さもあったと思いますし、背伸びして会社を必要以上によく見せようとしていたのかもしれません。そんな経験を経て、今はことさらによく見せようとするのではなく、新卒にせよ中途にせよ、入社していただく前に会社のありのままを見てもらうように工夫しています。

時期を同じくして、私も経営のスタイルを替えました。自分がすべての事業を差配しないといけないという思い込みを捨て、「自律分権経営」と言っていますが、トップによるグリップを手放す方向へ経営を進めています。20年以上前に著書に触れることがあったリカルド・セムラー氏(役職や肩書をなくしたフラットな組織体制を目指す『ホラクラシー経営』の先駆者と言われる)の来日セミナーに参加したのをきっかけに、自分の中で徐々に変化が起きたのだと思います。社員を信じて任せることを恐れないようになってきました。

組織では、本気さも中途半端さも伝染する。

私は『本気さも、中途半端さも、組織内に伝染する』と考えています。「あいつはあそこまでやるんだ、あんな凄いこともできたんだ」という本気さは「だったら自分だって頑張ろう」となって組織内に伝染します。逆に「あんないい加減でも通るんだ」という中途半端さも、「だったらこっちも真面目にやっていたら馬鹿らしい」という具合に組織内に伝染します。

地方企業にありがちなように、私が20年余り前に社長に就任した頃の当社も中途半端さ、凡庸さが染みついた状態でした。でも、それから長い期間にわたって年ごとに人材の新陳代謝が進んだ末に、中途採用の幹部登用がよい契機になり、“本気さの伝染”が起き始めているのではないかと感じます。

今ではプロパー社員、特に若い社員が活性化し、“人財”が割拠すると言えるような状態になりました。「人の潜在力はすごい」とつくづく実感しています。

事業会社を7人の幹部人材が経営。

現在、当社グループには持ち株会社を含めて10社ほどがありますが、その中で私が社長を務めているのは持ち株会社と中核企業の(株)マスヤのみ。それ以外の事業会社は7名の幹部人材が社長として経営してくれています。人材難で苦しんだ時期が長かっただけに、社長業を任せられる人材がこれほどいることは大変ありがたいと感じます。

彼ら、彼女らの経歴は、大手飲食FC本部経験者、青年海外協力隊経験者、メガバンクの支店長経験者、MBAホルダー、外資系ITベンダー営業責任者、あとはプロパー、と多彩です。「オーナー企業で働くと、マイクロマネジメントされるのではないか」と警戒していた方もいたようですが、今では「ここまで任せてもらっていいのか」と言ってくれています。

当初、幹部人材を外から積極的に採用することについては、プロパー社員のやる気を削ぐことになるのではという懸念もありました。それである時、次世代を担うボードメンバーの集まりに問うたのですが、幹部人材の中途採用に対してYESの回答だったので、迷いなく踏み切れたということがありました。

経営幹部の多様性から生まれるシナジー。

それぞれの社長には一国一城の主として各事業会社の経営をお願いしています。私は、自分流を押し付けず見守るよう努めており、当初は内心いろいろ思いましたが、今は平常心です。各幹部には、多様なバックグラウンドから来る仕事の流儀がありますから、それを尊重するようにしています。

ただ、最近は幹部同士で仕事の流儀がぶつかる場面も出るようになりました。部分最適で角を突き合わすのではなく、全体最適を見てグループのシナジーを生み出せるように導くのがグループCEOである自分の役割だと考えています。これを「欠乏マインド」と「豊かさマインド」という言葉で説いています。一国一城の意識が行き過ぎると、自分さえ良ければとパイを奪い合う「欠乏マインド」に陥ります。逆に、一致協力して全体のパイを増やして共に栄えようと考えるのが「豊かさマインド」です。どちらが優れた考え方かは、誰でも分かります。でも、実際の現場に身を置くと実践が難しいものです。そこが私たちの大切な成長テーマです。

innovationからINNOVATIONへ。

グループCEOとして、「自律分権」の考え方の下でグループを成長させていこうとしています。具体的には、持ち株会社と事業会社の関係を

【1】資本コストに見合った収益
【2】コンプライアンスの徹底
【3】経営理念に基づく経営

これら3つの柱で捉え、それ以外の多くのことを権限委譲します。

【1】で気を付けるのは、今今の利益だけにこだわると将来の事業活動にツケを残すかもしれないことです。現在最適にこだわり過ぎず、将来最適を見据えた経営になっているかどうかまで共に考えます。【2】のコンプライアンスは言うまでもありません。【3】のことを「理念経営」と言っており、マスヤグループの建国の精神のようなものですが、それは永遠に未完成であり、その努力に終わりはありません。

VUCA(ブーカ)と言われる時代を迎え、旧来の成長戦略では多くの企業が停滞から抜け出せません。そこで求められるのがイノベーションです。とは言え、当社グループ各社のような中小企業が創り出すイノベーションはマスコミに取り上げられるような派手なイノベーションではないでしょう。言わば小文字のinnovationです。

でも、地域の中で小文字のinnovationが群発するようなマネジメントシステムを機能させることができれば、地域全体では大文字のINNOVATIONが起きていることになります。地域に後継者不在に悩む企業がたくさん出てきている中、『マスヤグループが地域イノベーションのプラットフォームとして地域社会に貢献できれば』という思いでこれからも挑戦していきたいと考えています。

編集後記

コンサルタント
三田 泰久

グループ会社の社長に幹部人材を据えて、グループ経営に成功しておられることは以前から存じ上げておりましたが、今回のインタビューを経て、「自律分権」の旗印の下、これほどまでに権限委譲されていることを知り、大いに驚きました。

私自身が経営者として「任せる」ことを自らの課題として捉えていましたので、このインタビューを通してとても勉強になりました。

同社が本業を通して、M&Aを通して、また優秀な人材が地域に浸透することを通して、地域に起こすinnovationがINNOVATIONとなるプロセスを、微力ですが今後もお手伝いさせていただきたいという思いを強くしました。

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