『人こそ企業なり』次代を託す人材育成が最大のテーマ。
株式会社CEホールディングス
代表取締役社長 杉本 惠昭
1950年生まれ。
1971年 北海道電子計算機専門学校を卒業の後、大手IT企業にSEとして入社。
1990年 技術者仲間と会社を設立し代表取締役兼札幌支店長に就任。
1996年 札幌支店を独立させ、現在の株式会社シーエスアイとなる会社を立ち上げる。
2001年 東証マザーズ上場。
2013年 会社分割により持株会社CEホールディングスを設立。代表取締役社長に就任*。
2014年 東証一部に市場変更
※株式会社シーエスアイ代表取締役会長、グループ各社取締役を兼任。
※所属・役職等は取材時点のものです。
『人こそ企業なり』の経営理念に懸けた想い。
IT業界の夜明けとその発展を予感した私は、迷うことなく専門の学校で学び、東京の大手IT企業に入社しました。優秀なIT技術者が多数在籍し、さまざまな新規分野に接することのできる環境は、私にとってまたとない成長の場であったと思います。
しかしながら、当時同族経営だったその会社で働くうち、私の本当にやりたかったこととのズレを、少しずつ感じるようになりました。そこで私は熟慮の末、志を同じくする仲間とともに、独立への道を選ぶ決意をしたのです。直接の同僚や部下でなかったメンバーまでもが、私のもとへ集まってくれたことには感動しましたね。
こうして東京で会社を立ち上げたわけですが、その後紆余曲折を経て、出身地である札幌の支店を分社独立させ、その代表として新たな出発をするに至りました。これが電子カルテシステムの開発・販売を行う、現在の「株式会社シーエスアイ」に発展する会社となります。
どの局面でも、その方向転換の力となってくれたのは、常に私をサポートしてくれた仲間や後輩たちの存在でした。当社の経営理念に『人こそ企業なり』という言葉があります。よく使われる『企業は人なり』とは、少しそのニュアンスが異なります。後者が『経営を担う人・経営陣』にフォーカスを当てた言葉であると思いますが、『人こそ企業なり』には構成する社員一人一人こそが企業そのものなのだ、という想いを込めています。
私は新卒でも中途採用でも、その能力や技術、実績にも目を配りますが、最も重視してきたのは「人間性」です。経営判断においても、社員にとってより好ましい選択を優先してきたつもりです。当社の管理職は総じて部下想いの者が多いのですが、そのような空気を作ってこられたことは成功だったと思っています。
粘り強く作り上げた人脈が最大の宝。
しかし、「部下想い」というのは、社員をただ甘やかすということではありません。管理職には、部下に何もかも教えるということではなく、自己研鑽ができる環境を意識して「自分で考えろ」「工夫をしなさい」というマネジメントを行うよう要望し、そして自らもそのように実行してきました。それが、部下の成長につながる本当の優しさだと思うからです。
私は最初に入った会社からは離れることになりましたが、そこには優秀な技術者が多く、ずいぶん鍛えられました。厳しい先輩が多く、そこでもがきながら築き上げてきた知識や能力が今、役に立っていると感じています。そういった意味で当時の環境には学ぶことも多く、感謝しています。
新入社員を迎えた時、必ず話すことがあります。それは「人脈づくりに傾注しろ」ということ。とにかく多くの人と会い、話すこと。とはいえ、自分の人生にとって有益だと心から思える人は100人会っても1人か2人でしかないでしょう。でもそのごく少数の素敵な人は、かなり高い確率でさらに素晴らしい人脈を紹介してくれるものです。しかしそもそも、100人に会わなければその1人か2人に出会うこともないのです。
もう一つ新入社員に話しているのは「40歳までの自分作り」です。私の持論として「人間、自らを変えることができるのは40歳まで」と感じています。そこを超えるとなかなか変われるものではありません。新卒で入っても20年そこそこしかないわけですから、簡単なことではありませんが、それまでにいかに自分を鍛え、変えられる自分自身を構築していけるかを、若いうちから意識してほしいと思います。
仕事をどう処理していくか。発想の転換。
仕事の進め方でよく例えに出しているのが、病院の受付にある「診察券ボックス」です。来院された患者さんがそこに次々と診察券を入れ、積み重なっていきます。そして、下にある診察券の患者さんから順に診察室に呼ばれることになります。これは当たり前のことと思われるかもしれませんが、私は敢えて「これは『ファーストイン、ファーストアウト』、オーダーのあった順に処理していくという仕事の進め方で、病院の受付では当然のことかもしれませんが、君たちの仕事では『ラストイン、ファーストアウト』にしなさい」と言っています。
もちろん、最初にオーダーされたものをいつまでも放っておいていいと言っているのではありません。むしろ、そうならないように必死で上から処理していく。早く一番下のオーダーに到達する工夫をする。結果として診察券ボックスが常に空であるように努力せよ、ということ。そういう意識付けをするための言葉でした。
また「ディープソート&クィックアクション」もよく使うフレーズです。「深く考えたらすぐに行動し、後は走りながら考えろ」ということです。浅くしかものを考えない、しかも走り出したら方向転換できない、そんな人が多くありませんか?それではいい仕事はできないのではないでしょうか。そして、先に挙げた人脈づくりを加えて自分自身を成長させる近道だと教えています。
これからの戦略で生かされる人材採用。
当社は持株会社によるグループ経営に移行し、東証一部上場後は積極的なM&Aを行ってきました。この方針はこれからも変わりません。電子カルテ分野で国内2位のシェアを持つなどすでに優位な分野を持つ当社ですが、さらにそのシェアを拡大し、また医療関係の他分野、医療以外の分野への進出など、M&Aによる業容の多様化、拡大を視野に入れています。
持株会社形式ですから、グループ入りする企業を吸収したり、経営の独自性を壊すことは考えていません。むしろ新たな個性を持つ会社が仲間となることで、広い裾野を持つグループを構築したいと願っているのです。このM&A戦略を実務面で牽引しているのが、中途で採用した人材です。豊富な経験を生かし、彼が中心となってデリケートな要素も含むM&Aの道筋を見事につけてくれています。
当社はどうしてもIT系技術者が大半を占め、企画・経営といった面では人材が不足していました。彼はそういった当社に新しい風を吹き込んでくれる人材として期待しています。中途採用には、経営にインパクトを与え、組織を変える力があると実感しています。
私も60代半ばを越え、そろそろ次の経営体制を考えています。生え抜き、中途採用を問わず、バトンタッチできる人材を見出していかなければなりません。時代の流れで多くのIT系企業のトップが同じくらいの年齢に達しているようです。そのなかでどこよりも上手く経営を引き継いでいけるか、社長として最後の、最も重要な仕事だと考えています。